こんにちは。監査部佐藤です。
今回から数回に分けて、「創業前に確認すべきこと、知っておくべきこと」についてお話しします。
動物病院税務特化のコラムではございますが、しばらく経営に関するお話にお付き合いください。
ポイントは以下のとおりです。
経営のポイント
- まず、必要最低限の生活費を明らかにする
- 無借金経営は当分諦める
- 最重要事項は、”キャッシュが枯渇しないこと“ ※キャッシュ=現金、預金
- 個人事業主か法人設立か
- 専門家としての矜持と経営者としての成功
- いくら稼げばあなたの医院は継続するのか
今回のコラムでは、
1.まず、必要最低限の生活費を明らかにする
2.無借金経営は当分諦める
3.最重要事項は、”キャッシュが枯渇しないこと“
まで解説します。
4~6は次回以降のコラムで詳しくお話していきますので、お待ちください!
まず、必要最低限の生活費を明らかにする
お勤めを辞めて開業されますと、当たり前ですが毎月のお給料は入ってこなくなります。
今後は、貯金と医院での儲けで生活することになります。
といっても、医院での儲けは開業してすぐに得られるものではございません。
最初はむしろ出ていく方が多いでしょう。
このため、開業直後の数ヶ月の生活費は、主に貯金を切り崩して賄うことになります。
まずはご自身の預金通帳を確認していただき、自分は1ヶ月生活するのにいくら使っているのかを確認してみてください。
これを「A」と置きます。
続いて、以下の金額について確認しましょう。
[ご自身の貯金+親御さん等からの支援+金融期間からの借入−事業に必要な資金]
出てきた金額を「B」と置きます。
【B÷A=無収入でも生活できる月数】
ということになります。
ではこれが何ヶ月分あれば良いのか、と言われれば、これは千差万別なので明確には言えません。
生活水準も違えば、想定される経営状況も様々です。
また、季節によって想定される売上が大きく変動するビジネスですので、開業時期によっても変わってくるでしょう。
強いて目安を申し上げるなら3ヶ月分程度でしょうか。
ご存知のように、動物病院経営は現金化の早いビジネスですので、こういった点は有利です。
無借金経営は当分諦める
必要最低限の生活資金(先述した「A」の部分)を明らかに出来れば、金融機関へのお願いすべき借入希望額の目安を計算できます。
借入希望額の目安計算
例えば、必要最低限の生活費が30万円だったとしましょう。
手元の資金として貯金が400万円、親御さんからの支援が600万円あるとします。
そして、事業に必要な資金を2,950万円と想定して計算してみます。
(内訳は当初設備資金等2,800万円と薬品代や家賃等3ヶ月分で150万円)
※日本獣医学会はウェブサイト上に、「東京都内66㎡の賃貸物件で、平均的な開業準備資金が2,150万円、別に最低限度の設備・備品が596万円、合計2,746万円」というモデルを紹介していますので、これをモデルとしました
前述した式を少しアレンジして、
ご自身の貯金+親御さん等からの支援+金融期間からの借入−事業に必要な資金=必要最低限の生活資金×3ヶ月
を計算します。
400万円 + 600万円 + X - 2,950万円 = 90万円
X = 2,040万円
なので、融資希望額の目安は「2,040万円」となります。
注)上記はあくまでも「目安」ですので、実際に金融機関に申込む融資希望額は、具体的な損益の予測等も含めて総合的に決めて下さい。
数千万円の借金を負うことは、ほとんどの方にとって恐怖でしょう。
しかし、この恐怖については、経営者になる以上は慣れて頂く必要があります。
むやみに無借金経営を目指さないでください。
経営者にとって本当に怖いのは「お金がなくなること」です。
税理士法人YFPクレアのホームページにおきましても【経営計画で無借金経営を】といった趣旨のページがございますが、これも「すべての経営者が無借金経営を目指すべき」という意図ではございません。
このお金についてという部分は、次の「3.最重要事項は、”キャッシュが枯渇しないこと“」で詳しく解説します。
※融資については、別回で詳しくお話します。
最重要事項は、”キャッシュが枯渇しないこと“
まず、前提として「キャッシュ=現金、預金」、つまり手元資金のことであることをご理解ください。
経営において、キャッシュが枯渇しない立ち回りは大変重要です。
解説していきます。
無借金経営に対する考え方は様々
さきほど、むやみに無借金経営を目指すべきでないことについてお話しました。
「無借金経営を目指さない」についてはいくつかの感想やご意見をいただいたことがあります。
自分も、なぜ無借金経営を目指す人がいるのか理解出来ない
繰上げ返済してほっとしたと言っている経営者仲間がいたが、手元資金が手薄になって危ないと思っていた
等、ご同意いただける方が多かったのですが、その中で一つ気になるご意見を頂戴しました。
動物病院の場合は、基本黒字で安定している業種だから、必要になれば銀行はお金を貸してくれる。
なので、金利がもったいないから返せるものは返しちゃう方が得策では??
このご意見については、「そうかも知れません」と返答しました。
確かにその通りだなと思いました。
こういった側面があるのは事実です。
また、税理士法人YFPクレア内でも無借金経営については意見の分かれるところではあります。
医院が潰れるのはどんなとき?
とは言え、やはり潤沢な手元資金にまさる安心材料はございません。
先生の医院が将来立ち行かなくなり、閉店するとしたらそれはどのような理由によるものでしょうか。
ライバル医院の出現、人材不足…様々考えられますが、これは直接の理由にはなりません。
先生の医院が立ち行かなくなるとしたら、それは「お金がなくなったとき」です。
赤字が何年続こうとも、お金があれば医院は存続します。
逆に、どれだけ利益が出ようともお金が入ってこなければ医院の経営は継続できません。
(以前、ブログで同じ内容について書きました。ご興味があればお目通し下さい【融資のこと、入門の入門】)
手元資金に余裕があることのメリット
余裕ある手元資金を持つことのメリットは、非常に大きいものです。
それが医院の利益の積み重ねによるものでも、借入によるものでも同じです。
このメリットについて、もう少し具体的にお話させてください。
院長先生に万一があったときの備えになる
これは上述した医院が立ち行かなくなるお話の続きです。
動物病院の経営は、”院長先生ありき”です。
他の事業と比較して経営者依存の高いビジネスモデルと言えます。
その院長先生が倒れました、大きなご病気をされて長期離脱となりました、となったとき、それまでの経営がどんなに順調であったとしても一気に大ピンチに陥ってしまいます。
数十年に及ぶ動物病院経営です。どんな強力な横風がいつ吹くかもわかりません。
むしろ必ずそういったピンチはくる、と考える方が自然でしょう。
この時に十分な資金があれば、先生が復帰されるまでのスタッフの給与や家賃等の固定費、先生ご自身の必要生活費が賄えます。
場合によっては代わりの獣医さんにピンチヒッターをお願いすることも出来るでしょう。
ちなみに、このリスクについては保険でカバーする手もあります。後日ご紹介します。
競争力の維持につながる
いうまでもなく全ての事業会社は競争の中にあります。
特に動物病院経営はこれからの10年の間に過当競争となることも考えられます(当コラム第一回参照)。
この中で、近隣のライバルに負けないで医院を維持していくためには競争力が必要です。
医院の競争力は、先生の施術スキル、コミニュケーションスキルだけではございません。
- 時代に合ったホームページの作成
- 優秀なスタッフの獲得、教育、雇用維持のための福利厚生や、他医院からのヘッドハンティングに負けない給与体系の構築
- 新規顧客確保のためのキャンペーン
- 看板の設置、web広告
これもまた競争力です。必要と判断した時にはすぐに具体的に動けること。
そのためにはやはり手元資金が必要です。
手元資金の余裕=医院の競争力
このようにお考えください。
*注)競争力維持のためでも新規設備の購入等、多額の投資は手元資金で行わない方がおすすめです。これはこのための融資を受けるか、リースで入手しましょう。
おわりに
今回は経営についての考え方の基礎から資金についてお話しました。
次回は、
「4.個人事業主か法人設立か」
をテーマにお話します。
話してほしいテーマ、個別の相談があればお気軽に下記メールアドレスまでご連絡下さい。
satoh-akifumi@tkcnf.or.jp
佐藤
動物病院税務特化チームを持つ税理士法人YFPクレアの動物病院の税金・税務・経営コラム、次回もお楽しみにお待ちください。
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投稿者・投稿者チーム紹介
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フランチャイズの税務を得意とする3部。
創業融資からサポートをはじめて、無理なくできる返済スケジュールや役員報酬まで創業時にまつわるお金のエキスパート!
創業期サポートの誠実さはもちろん、フランチャイザーとの協力で低価格・高品質なサポートを行い、お客様から高評価を頂いている。
フランチャイズとは全く関係ないが、動物好きが集まっていることから動物病院の税務にも力を入れている。税務を通して動物愛護中。
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